オーナーはオールドフォルクスワーゲンのエンジンチューンでは有名なエンジニアです。フォルクスワーゲンはもとより、様々なバイクのカスタムもされています。
最初に出会ったころは、古い町工場然とした倉庫兼工房でした、錆びたトタン屋根と外壁、その味わいが大好きだとお話しされた様子が印象的な施主様でした。錆びたエンジンがごろごろと転がった工房、その錆びたエンジンが宝物だとのこと。
台風一過の朝、訪れるとなんとトタンの屋根が飛んでしまい、空が見えていました。
好きなものは、ワーゲンにバイク、忌野清志郎とデステイルです。
そんな工房の建て替え計画です。
工房だけでは収支がつらい、ということもあり上部は賃貸住宅を併設することに。銀行様のアドバイスも受け部屋数を確保しようと4階建てで計画しました。
しかし、本当にこれでいいのか考えました。
感度の高いオーナー様、そこを訪れるバイカーたちのエンジン音、そこにバイクには縁もゆかりもない住宅たち。水と油です。そして、駅からバスで10分と決して好立地ではありません。
そんな中、「やっぱり好きなことに忠実に!だよね」。
計画変更の始まりです。
まず、1階には電動シャッター付の入居者専用のバイクガレージを準備。部屋はワンルームながら広めに設定。高級大型バイクを安心して保有できる環境と、それらを楽しめる、少し大人の住める賃貸をコンセプトに計画を見直します。これにより、賃料設定をあげることに成功しました。
また、地盤があまりよくなかったことなども考え、損益分岐点になる建設コストを試算し、3階建てで抑えることで初期投資を抑えました。これによって、オーナーが安心してご自分のお仕事をしていただく経済的状況を確保しました。
ここでは、めいっぱい建てることより、安心できるサイズ感を一緒に相談し時には、ブレーキの役割を務めるのも設計者の役割です。
店舗兼工房部分も思い切って、吹き抜けを確保、将来の増築に備えるなど、将来のフレキシビリティーや拡張性にも気を配りました。
そして、形です、バイクのカスタムショップがかっこ悪くては困ります。
デステイル風にしてほしいとのご要望です。試行錯誤の上、どうにかシュレーダー邸等の雰囲気をまとうことができたと喜んでもらいました。
しかし、この建物の雰囲気を作るディティールはオーナー様自身の作品によるところが大きいのです。
建物から突き出る「NORTH APARTMENT」のサイン、スパナを加工したドアハンドル、赤い照明器具とオーナー自身が制作されたものたちが効いています。
そしてもっとも、苦労したのは色彩計画です。
モンドリアン的な派手な原色づかいは、建築だと難しい点があります。建築家は色の見切りを入隅でとか、VOLUMEごとになどにこだわるのですが、オーナー様の色彩イメージは、まるで車のカラーリングのように自由自在です。それらを、喧々諤々、最後は特徴的な外観にまとめることができました。
よろこび過ぎて、いきおいあまったオーナー様は、バウハウス風ロゴマークを考え、オリジナルパーカーまで作ってくださいました。
個性の家の、ショップバージジョン的な雰囲気の物件ですが。計画時の規模縮小など、とにかくめいっぱい建てさせようとする、ゼネコン的アプローチではなく、設計者はプロとして、きちんとしたコンサルタント機能も有している点も知ってほしいと思います。
せっかく評価されている趣味人のオーナーが、マンション経営で汲々としてしまうのでは、建築で人を幸せにという、当社の理念に反しますし(大きい方が設計費も多いのですが・・・)
モノづくりを生業とするオーナーとの2人3脚的な取り組み、うれしくってパーカーやロゴまで作っちゃう、プラモデルができたときの子供みたいにはしゃぐ大人たち 心躍るモノづくりを感じてもらえればと思います。